関大界隈でご飯を食べるとなると、真っ先に思い浮かぶのはかんまえ通りや生協の食堂!という人は多いかもしれないが、まだまだ知られざる素敵なお店が千里山キャンパス周辺にはたくさんある。
今回はそのひとつ、「onishisantoko(オオニシサントコ)」を紹介します。
【写真】千里山キャンパス第1学舎近くの隠れ家和菓子店はおはぎが名物
お店があるのは関西大学千里山キャンパスの裏手、通称「かんうら」エリア。 第4学舎の裏にある五号門(東門)を出て左に曲がるとすぐ。大きなヤシの木…ではなくシュロの木が見えたら、そこがonishisantokoだ。
入口の引き戸の上には、小さく「ゆにわ荘」と書かれた看板がある。
実はここ、1961年(昭和36)から2010年(平成21)までは学生寮だった建物。 住む人がいなくなった寮を「また人が集まるような場所にしてほしい」と願った大家さんによって貸し出され、そこに現れたのが大西文佳さん(おおにし・ふみか、31)だった。
「カフェのための物件を探していたら偶然ここを見つけて、ホームページに書いてあった 大家さんの想いを見て一度見学してみたいなと思いました。実際に見学に来たら、一目惚れしました。この建物の歴史や存在意義みたいなのも素敵だなとか、もともと古い建物が好きだったこととか、ここでお店ができたらいいなというイメージが湧いてきたこととか、全部がマッチして。それでここに決めました」
こうして、大西さんは学生寮をカフェに生まれ変わらせるべく、リノベーションを始めた。
お店の内装作りは、設計士からのアドバイスをもらいながら DIY したという。
「壁の左官は友達みんなに手伝ってもらったので、今でもこの人がここを塗ってくれたなぁと考えたり、思い出深いです」と、壁に目を向けながら嬉しそうに微笑む大西さん。壁だけでなく、木の温もりを感じるトイレや、古材を重ねたカウンターなども手作り。店内に見えるものひとつひとつにこだわりが詰まっている。
一方で、昔懐かしいすりガラスの窓や建物を支える柱など、学生寮時代から受け継いだものもある。
長年、寮で暮らす学生達を見守ってきた古い柱には今、カフェに訪れる子供達の身長が記されている。
そんな、大西さんの丁寧なこだわりはメニューの食材にも表れている。
ランチやスイーツに使われている野菜は、地元・吹田の農家が作るものを仕入れている。流通を介していない、新鮮なものをたくさん食べてもらいたいという思いからだ。
その時々で市場にあるものを使い、旬を過ぎればメニューも変わる。
「スーパーとかと違って旬のものが決まっているので、全部のお野菜があるわけではないんですが、やっぱりこの時期はこのお野菜が美味しいですよっていうのを伝えたいので。あとは、天候によって不足したりもするので、そんなふうに野菜があるのが当たり前じゃないといったことも感じてもらえたらなぁと思っています」
そう話す大西さんは、そもそも野菜自体が大好き。野菜のフォルムや断面など、ついつい写真に撮ってしまうんだとか。お馴染みの野菜だけでなく、そうめんかぼちゃやひもなすなど、家庭では普段なかなか使われないようなちょっと珍しい野菜や面白い野菜も、見つけたら積極的にメニューに取り入れるようにしているという。
まもなく夏が終わって、食欲の秋がやってくる。秋のおすすめ野菜を大西さんに教えてもらった。
「10月から11月位になると、サツマイモや里芋がすごく好きなので、よくお店で使ってます。あと、栗はいつも能勢のものを仕入れて、マフィンにしたり栗のペーストを使ったおやつにします。今年もたぶん手に入ったらすると思います。2020年のランチプレートで好評だったのは、里芋のじゃこ和えですね。里芋を茹でてつぶして、醤油とみりんと味海苔とじゃこを混ぜてポテトサラダみたいなマッシュにしたもので、ご飯にも合う人気メニューです。ちょっとねばねば、ねっとりした感じで、おいしいですよ」
今から秋が待ち遠しくなるような、素敵な食材が勢ぞろいだ。
大西さんはカフェをオープンする前、生活支援員として働いていたという。「人と関わる仕事がしたい」というのが、福祉の仕事を選んだ理由だった。
仕事をしていく中で、言葉のコミュニケーションが取れない利用者が食事の場面になると笑顔になる姿や、食を通じてコミュニケーションを取っている姿を見たという。
「食(しょく)ってお腹を満たすだけではなく、その場を明るくしたり食を通じてコミュニケーションツールになるなと感じたことで、何か食に携わる仕事をしたいなと思うようになりました」
そんな想いを持って誕生したonishisantokoは、単に食事を楽しむ飲食店であるだけでなく、地元で採れた野菜を販売したり、コロナ禍以前はワークショップやお話会を開催するなど、人と人のつながりが生まれるような場所であることを大切にしている。
イベントを通じて、店に訪れる人々の間にコミュニケーションが生まれる。その真ん中に美味しくて健康的なご飯やおやつがあれば、もっと楽しい。
大西さんが理想とした食のあり方が、まさにここでは実現されている。
onishisantoko は、2021年の10月14日で3周年を迎える。
記念イベントとして、10月30日には地元で作られた野菜やパン、そして大西さんの3年間を詰め込んだお弁当などを販売するマルシェを開催予定だという。
さらに、現在11時〜16時までの営業時間も、3年目からは10時半〜18時までへと延ばす。1限終わりの早めのランチや、4限終わりにほっと落ち着くカフェタイムなど、関大生の利用の幅も広がる嬉しいニュースだ。
開店当初は関大生の利用は少なかったものの、最近は Instagram などを通じてお店のことを知り、訪れる学生も増えてきたという。
にぎやかで活気あるかんまえエリアとは対照的に、住宅街が広がるかんうらエリアは耳をすませば風の音や小鳥の鳴き声が聞こえる、静かで落ち着いた場所だ。
「ほっとするような、日常に寄り添ったお店でありたいと思っています。かんまえエリアのカフェとかだと人が多いけど、ちょっとゆっくり本が読めるような、そういう隠れ家的な場所として使ってもらえたら嬉しいです」と、大西さんは話す。
野菜たっぷりの家庭的なご飯や、やさしい甘さの焼き菓子とともに時間を忘れて過ごしていると、かつての学生寮がそうだったように、まるで自分の家に帰ってきたかのような、落ち着いたあたたかい気持ちになれる。
「大西さんとこ、行こ〜」という感じで気軽に来てほしい、との想いを込めた店名の通り、まったりひと休みしたくなったらふらりと訪れたいカフェだった。【文・村岡すみれ、撮影・小野桃子】
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