メディアアーティストであり、研究者・起業家としても多彩に活動する落合陽一さん (37)が 12日、関西大学千里山キャンパスで客員教授としての初講演を行った。2025年 大阪・関西万博でシグネチャーパビリオン「null2(ヌルヌル)」の事業プロデューサーを務める落合さんが、自身の研究テーマである「デジタルネイチャー」や、万博を通して社会に問いかけたいテーマについて語った。
会場の半分以上を占めた関大生らの前で、落合さんはまず、「ヌルヌル」パビリオンの構想を紹介。AI やアバター、映像を使って、人と社会のあり方をもう一度考え直すような体験型の展示になっているという。ちなみに「ヌルヌル」という名前は、仏教の般若心経に出 てくる“空即是色”という考えから来ており、「ヌル(null)」=“何もないけど、そこにあるような感覚”をイメージしたものだと説明した。
スマートフォンで自分の姿と声をスキャンし、AI が「自分そっくりのデジタルヒューマン」を生成する。来場者はそれと対話を行う。まさに来場者自身が“未来”を体験する装置だ。この体験は、人間が「自分以外のAIの真実性をさほど気にせずに接する」ことを前提とした社会実験でもあり、AI時代における“リアル”の再定義を問うている。
落合さんは、万博の意義についても言及。AI が人間の活動を本格的に代替し始めるこの時代に、世界中の人々が集い、未来社会について議論を交わすこの機会は、極めて重要だという。「2030年代の視点から振り返れば、2025年は『人間がまだ多くのことを担っていた懐かしい時代』として記憶されるかもしれない。電話番号を覚えなくなったように、私たちは日常の多くをAI に委ねていくが、人間同士の関係性やコミュニケーションの質は、 今後も守られ、育まれるべきだ」と語った。
さらに、AI が知的生産の領域に進出しつつある現在、人間に求められるのは「生み出す力」ではなく、「選ぶ力」だとも強調。創造や判断の本質が変化するなかで、人間は“意志を持つ存在”として、どう社会に関与するのかが問われている。
最後の質疑応答セッションでは、関大生6人がそれぞれの関心に基づいて、落合さんに質問を投げかけた。AI時代の「人間らしさ」ってなんだろう? 生と死の境目ってどこにあるんだろう? 仕事ってどう変わっていくんだろう?――そんなテーマが飛び交った。抽象的な問いに対しても、落合さんは具体例を交えながら応答し、学生たちの思考をさらに深めた。
「技術が加速する時代に、人間はいかに他者と関係を結び、自分たちの未来に何を残すのか?」。落合さんの講義は、関大生一人ひとりに対してその問いを静かに差し出す時間となった。【小倉ちあき】
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