劇作家で俳優の内藤裕敬さん(58)が率いる劇団・南河内万歳一座の公演「びっくり仰天街」(7日〜12日・大阪市一心寺シアター倶楽)に、関西大学演劇研究部学園座の座長だった俳優の木下健さん(32=09年法卒)が出演する。卒業後は大手家電量販店に勤務していたが、退社して同劇団のオーディションに合格。遅咲きの冬の花か、それとも狂い咲きか!?32歳で、関西小劇場界の有名老舗劇団で舞台に立つ。

正直言って、見た目は暑苦しい。それ以上に、演劇へのアツい思いがほとばしる。家電量販店の店員時代も、捨て切れなかった芝居への情熱。液晶テレビを激安で売っていたが、自分の人生だけは安売りできなかった。「本気でやろう」と心に決め、辞表を出して2度目のオーディションを受けた。全身全霊で臨んだが、内藤さんには「人生頑張ってね」と声をかけられたという。貯金も失業保険も切れていた。

落ちたんやなーーと天を仰いだ木下さんだったが、数日後には京セラドームそばにある南河内万歳一座の稽古場にいた。タレントのなすびに似ていることから、ナスというあだ名で呼ばれているという。後の酒席で、合格させるかどうか相当迷ったことを聞く。内藤さんいわく「会社辞めてまで来たのに、後悔させたくねぇんだ。今のままではどこへいっても苦労する。失うものは何もないんだし、鍛えてやろう」と、一座へナスがままに導かれた。

中学・高校時代は、何をやっても続かなかったという。テレビでたまたま見たコント集団ザ・プラン9の公演に惹かれた。「すごい面白いなぁ…と思って。メンバーの浅越ゴエさんが立命館の演劇サークルにいたことを知って、大学に入ったら演劇をしようと」と、関大入学後すぐに学園座の門を叩いた。【写真・南河内万歳一座の公演「びっくり仰天街」に出演する木下健さん】

関西大学千里山キャンパスの総合図書館や凜風館の外周を、学園座の男子部員はよく全裸で走っていた(何の意味があるのか…)。全身全霊をかけた学内での公演。野球を題材にした舞台で球場の蔦(つた)を表現しようと、総合図書館裏に当時あった蔦を盗……拝借したところ、公演中に枯れて茶色になり意に反してライブ感が出たと笑う。「こんな楽しい世界あるんや…人生がパッと明るくなりました」と振り返る。

演劇の魅力。南河内万歳一座の公演を例にとって、木下さんは説明する。「お客さんが前のめりになるというか、気持ちが前のめりになるのがわかる。熱がわかるんです。舞台に立つと、よけいに感じる」。学生時代にはわからなかった間合いやセリフの意味も、今ではわかりつつある。劇団の稽古開始時間1時間前には役者が集まり、各自“肉練”と称するトレーニングをこなしスタートから動きを全開に。俳優・木下健を成長させるのは、そんな毎日の真剣勝負だ。

「客として見ていた時代、南河内万歳一座の熱量にやられてしまった。学生には敷居が高く難しいイメージがあるけど、バタバタ劇で面白い作品になっているので、見に来てください」と、7日から始まる公演をPRする。人生は舞台、とシェイクスピアの名言をいつも胸に留める木下さん。こう思うと楽になるんです…と話すが、演劇を一生続けるという決意にも取れた。

【大阪公演】12月7日(木)〜12日(火)一心寺シアター倶楽

【北九州公演】12月16日(土)、17日(日)北九州芸術劇場 小劇場

【東京公演】2018年1月17日(水)〜21日(日)ザ・スズナリ

【公式サイト】http://www.banzai1za.jp/bikkuri2017/top.html

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