関西大学社会学部出身の末永光さん(すえなが・ひかり、25=14年卒)が作った本「3.11からの夢」(いろは出版、税込2052円)が、発売後1年経った今でも話題になっている。東日本大震災から立ち上がった30人の夢を、約2年かけて取材し、多くの写真とともにつづった一冊は、生き方を問う内容だ。日本テレビ系列の「NNNドキュメント」も、出版に至る末永さんを特集。昨年2月の販売直後から、大きな反響を呼んだ。

一昨年の震災忌。末永さんは、取材で宮城県気仙沼市を訪れていた。午後2時46分のその時を、どこでどんな風に過ごそうかと考えたものの、答えが出なかった。東北の人達が連帯感をもって迎えた瞬間、彼女はひとり車の中で追悼のサイレンを聞いた。

「実際、私は3月11日に東北にいた訳ではない。現地の人たちの気持ちを、彼らと分かち合えないんじゃないのか。3月11日をどこで、どう迎えればいいか分からなくて、ひとり車でサイレンを聴いた時、私が馴染もうとするのは違うんだ」。自分自身はよそ者だと腹落ちした時、編集者としての覚悟が決まった。

失意の中で、取材相手からかけられた「夢を考えるなんて、希望の宿題をもらったみたい」という言葉が、末永さんの背中をさらに押した。「私にしかできないことをしよう」。3.11から歩き出した30人の夢を本にする。夢をテーマにした本を、多く手がけるいろは出版にしかできないことだと確信した。

入社まもなかった末永さんだが、彼女ならやれるかもしれないといろは出版の木村行伸社長(36)は考えていた。完成まで約2年、東北を訪れた日数は156日。取材相手とケンカになることもあったが、よそ者だからこそできる関わり方が、被災地の心を解きほぐしていった。【写真・末永光さん(右)と、同じ関西大学卒の編集者で「文房具図鑑」「寿命図鑑」を出版した河北亜紀さん】

「私の母は、強くて、弱い人です。これからも、母に共感してもらえるものを作りたいと思っています」。将来の夢はお母さんになることだと語った、末永さんの結婚が決まった。人生の分岐点に立って自分の人生をもう一度見つめ直し、出した答えは家族を大事にしながらもインタビュー職を働き続けてくこと。

現在、いろは出版を退社し、京都の精密機器メーカーで広報誌を手がける。「取材は相手にとっての貴重な時間をいただくお仕事。取材させていただいたその時間を、取材相手によかったなと思ってもらえる記者になりたい」。末永さんの本はつらいことも、夢も、引き受けてくれる。【山本朝子】

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